買いたくても買えない理由はある。

それはラックスの信条は真空管にあるからだ。デジタル全盛の時代、ラックス製品でもその例は漏れないが。オーディオファンにとって
ラックスとは真空管の製品なのである。買えばほぼ半永久的に使えるだろう半導体の製品ではない。
筆者は真空管時代を過ごした人間である。家のラジオは真空管であった。テープレコーダーも真空管。ギターアンプも真空管。
後に買うテレビカメラも真空管。全てに真空管が付いて回っていたのだ。当然ながら若いころ作ったアンプやら無線機、どれもこれも
真空管だったのである。しかし、トランジスターの時代になり考えは変わって行く。あの熱くて扱いに困る真空管は、やはり時流には乗れなかったのだ。
その中でも、地道に管球アンプを作りつ続けてきたのはラックスであった。テクニクスも当初のアンプは真空管であった。
アンプは真空管とダイオードのハイブリッドとなり、進化を続けるが筆者は導入できなかった。高価だったのである。
真空管で良い音を追及すると、機器は高額になったのだ。
コストでは断然トランジスターが良かった。トランスも小さくて済み万全だったのである。だが・・・。そのトランジスター化はオーディオファンに大きな
疑問を投げかけるようになる。
本当にトランジスターアンプは音が良いのだろうか、真空管は音が劣るのだろうかと言う、素朴な疑問である。


ラックスは勿論トランジスターアンプも多数販売している。1963年半導体のアンプを最初に販売したのはラックスである(SQ-111)。
管球式ではプリメインアンプSQ-5Aを1961年に発売、 1962年発売のSQ-5B(発売時価格35100円)などが走りであろう。
1964年にはSQ-38モデルが発売されている。1995年には創業70周年記念モデルSQ-38S(35万円)が発売されている。
2008年SQ-38u(388000円)に発売。現在販売の物はLX32u(280800円)でこれは2013年新発売の製品。いずれも木製のケースに入った製品である。
何と、このシリーズは52年も販売されているのだ。
使用真空管は五極管のEL84(8本)で16Wのアンプとなっている。なおSQ-38は三極管の12AU7(3本)、12AX7(3本)、五極管の6267(EF86)(2本)、三極管50CA10(4本)合計12本の真空管を使用している。

真空管は基本電球のようなものだから、フィラメントは劣化し断線する。よって、寿命は1千時間程度。オーディオに使用している管球は
同日同工場同材料で生産されたものでないと、音質に影響が起こる。よって、オーディオ用途の場合販売はペアで行われる。
当時は安価なもので数百円、高価なものでも数千円だったが、現在では生産がほとんど終了しており1本数万円もするのは珍しくない。
普及管でも数千円で、交換は多額の出費を必要とする。かつてはNEC、東芝、ナショナルなど真空管は多数販売されていたが、ほとんど絶版。
現在は中国製が大半を占めている。
モノラルアンプやらパワーアンプはKT88が多く使われているが、ペアで4万円オーバーが普通である。トライオード Triodeで販売しているKE88は
1万円を切る価格であるがむろん国産ではない。


さて旧題の、音質の件であるが、オーディオの黄金期秋葉原のオーディオ販売店でのデモは大半が管球アンプによるものが主だったと記憶している。
それは内外共に変わりがなかったのだ。特性はともかく、良い音を出していたのは間違いがない。
しかし、それが現在のようなハイスピードのスピカーに合うかと言えば疑問と言わざるを得ないのも確かだ。

かくして、購入に至らなかった理由はひとつ。面倒だったからと言うことになるだろう。
しかし、時間に追われなくなった今、筆者は真空管に密かな希望を持ち始めている。
かつて、真空管のアンプばかりだった頃を思い出している。

木製のケースに入ったラックスの管球アンプ、それが思い浮かぶのだ。

あと、真空管のアンプには避けて通れないアンプがある。
それは「上杉のアンプ」である。「ウエスギと読む」。1970年代ラジオ技術誌に管球アンプの製作記事を長く載せていた、故上杉佳郎氏のアンプである。
彼は後年上杉アンプ研究所を設立し、現在はTEACがその販売を行っている。


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