夢工房




気がつけば夢ばかり追っていた。巷に蔓延するパソコンとインターネット。 かつてのカラーテレビのように、
パソコンは繁殖し増殖をし続けている。真空管をソケットに差込みおそるおそるスイッチを入れてた頃が
そんなに遠い日の事だとは思えない。半田ごてで焼けどをしながら配線を引き回す。 
コンデンサーと抵抗だらけのアルミのケース・・・。何もかもが確実に存在感を持っていた。
相手のいないトランシーバー・・・。ザーッという音の向こうにはそれこそ何も反応が無かった。 
でも、ただそれだけで良かったのかも知れない。まもなく真空管はトランジスタに駆逐された。もう、
球の切れることも無いし焼けどの心配も必要は無かった。 無機質だ・・・。少年 はそう思った。
ゲルマニウムラジオから真空管、そしてトランジスタ・ラジオ・・・。 日進月歩の発明に、少年は心躍らせた。
三十三年前少年が東京に来て最初に行ったのは、やはり秋葉原だった。 
もう何度通ったことだろう。NECのビットインで、真っ黒な画面を取り囲みバグを探していた彼らは
今何をしているのだろうか・・・。
時代は変わってしまった。かつての少年が夢みた世界は現実になろうとしている。
設計図が嫌いで技術屋になれなかった少年。  結局彼は電気の道を歩むことは無かった。
ときより訪れる秋葉原のジャンク屋で、古いものを見つけては懐かしがる彼の姿を見る。

夢工房・・・。  彼は何を造ろうとしているのだろう。

 




 つづく                                                                ドロップロール